君死にたまふことなかれ

2017年8月7日

漢方鍼灸個別治療室仁塾

君死にたまふことなかれ

旅順の攻圍軍にある弟宗七を歎きて

與謝野晶子

ああ、弟よ、君を泣く、

君死にたまふことなかれ。

末に生れし君なれば

親のなさけは勝りしも、

親は刃やいばをにぎらせて

人を殺せと?へしや、

人を殺して死ねよとて

廿四にじふしまでを育てしや。

堺の街のあきびとの

老舗しにせを誇るあるじにて、

親の名を繼ぐ君なれば、

君死にたまふことなかれ。

旅順の城はほろぶとも、

ほろびずとても、何事ぞ、

君は知らじな、あきびとの

家の習ひに無きことを。

君死にたまふことなかれ。

すめらみことは、戰ひに

おほみづからは出でまさね、

互かたみに人の血を流し、

獸の道に死ねよとは、

死ぬるを人の譽れとは、

おほみこころの深ければ

もとより如何で思おぼされん。

ああ、弟よ、戰ひに

君死にたまふことなかれ。

過ぎにし秋を父君に

おくれたまへる母君は、

歎きのなかに、いたましく、

我子を召され、家を守もり、

安しと聞ける大御代おほみよも

母の白髮しらがは増さりゆく。

暖簾のれんのかげに伏して泣く

あえかに若き新妻を

君忘るるや、思へるや。

十月とつきも添はで別れたる

少女をとめごころを思ひみよ。

この世ひとりの君ならで

ああまた誰を頼むべき。

君死にたまふことなかれ。

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